2018年1月  『 南無大師遍照金剛 』

真言宗ではお勤めの最後に「南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)」とお唱えします。
これは真言宗を開かれた弘法大師空海さんに対して、礼拝する言葉です。
南無とは、「心も身体も従います」という意味です。
大師とは、大導師の略で、国を導く偉いお坊さまに与えられる称号を意味します。
遍照金剛とは、真言宗で一番大切とされる大日如来という仏様の別名です。

平安時代、弘法大師空海さんは遣唐使として中国に渡り、真言密教の教えを学んで日本に持ち帰り、真言宗という宗派を開かれました。
中国では、恵果和尚という偉いお坊さまの下で真言密教の教えを学び、灌頂(かんじょう)という儀式を受けました。
灌頂とはインドの王位継承の儀式を取り入れたもので、師匠(恵果和尚)は弟子(空海さん)の頭に清らかな水を灌ぎます。
空海さんは曼荼羅という仏さまがたくさん描かれた図に花を投げます。
投げた花が大日如来の元に落ち、空海さんは大日如来とご縁を結ばれました。
この時、空海さんから恵果和尚からいただかれたお名前が「遍照金剛」です。
日本に帰られてから高野山で入定されるまでの期間、国のために民衆のためにさまざまな活動を行なわれた弘法大師空海さんに対して「まさに大日如来と一体となられた、ありがたいお方だ」という信仰が生まれ、拝む際に「南無大師遍照金剛」とお唱えするようになりました。
空海さんを見習って、「私も成仏できますように」と誓う言葉なのです。

真言宗の特徴として「即身成仏(そくしんじょうぶつ)」があります。身(み)に即(そく)して仏となる、すなわち「父母が生んでくれたこの身で成仏する」ことです。
では「成仏」とはどういう状態でしょうか。苦しみや悲しみなど心に生まれる負の感情気持ちは、分別があるから生まれます。
自分と他を区別し、比べて羨ましがったり悲しんだりし苦しみとなります。自分と他が一体である「宇宙的目線」に立つことが大事なことです。
苦しみがないとは、幸せな状態です。幸せとは、なにかを得たから幸せになった、ということではありません。
なにかを得ても、すぐに不満足に思え、キリがないのです。苦しみがない状態が幸せな状態なのです。そのためには、自分が正しいという認識を捨て自己中心的な利己的な心をなくし、思いやりで他を傷つけることなく、許す心を具えましょう。
謙虚で他者へ親切にしましょう。
親切は幸せを感じることのできる行為なのです。
空海さんは「思いやり」を大切にされ、人々を導く行為を重視されたそうです。

日本の仏教といいますと、「先祖供養をする宗教」のように思われるかもしれませんが、本来、宗教とは生きている人の心をほっとくものではありません。
生き方を説くものです。
自らの人格を改良していきましょう。そうすることで、人は成長し成仏することができるのです。

合掌 橋本悠照